インタビュー


クロード・ドゥラングル

インタビューの様子

 
━━━ パリ音楽院で教える前はどこで教えていましたか?
  • 兵役を終えた20〜21歳のときは警察音楽隊でバリトンサックスの2番を担当していました。それから25歳までボルドー近郊のアングレムという町のコンセルヴァトワールで教え、その後パリ郊外ブーローニュの地方音楽院で6年間教えた後にパリ音楽院で教え始めました。パリ音楽院で教え始めた時、私が考える生徒たちの良い演奏というのは即ち私の考えに近い演奏でした。私の考えから遠い演奏には何をどう言ったらよいか分からなかった。しかし時が経つうちに「こうしなくてはいけない」と教えるのではなく、生徒に応じて客観的な視点を持つことが出来るようになっていった。コンクールのためなのか、コンサートのためなのか、レパートリーを増やすためなのか。生徒の目的によって教える方法も変わてきます。生徒の体調も関係し、疲れている時にあれこれ強く言てっも聞く耳はない。私が一番興味を持つのは「演奏」ではなく「人」です。彼らがどういう状況にいるのか、どんな背景で演奏しているのかということを知りたいといつも思う。

  • こで教え始めて22年になるから、教師としてのキャリアは32年になります。最初は、教えることと演奏することは二つ別々のものだったけれど、今は私の中で一つになりつつある。教職がなかったら演奏家として今ほど上手になっていなかっただろうし、演奏していなかったら教えることも上手くいかなかたっと思う。

 
 
 
 
━━━パリ音楽院の伝統についてはどのように考えていらっしゃいますか?

  • 他の人たちとは考えが少し違うかも知れない。私にとって「伝統」とは先生から習ったことを生徒にそのまま教えることではない。それは不可能です。デファイエはミュールから教わったことをそっくりそのまま「保存」し、ミュールと同じように演奏しようとしました。同じレパートリー、同じ四重奏曲、ソロ、協奏曲、ヴィヴラートまでも同じように。でも実際の彼の演奏はミュールとは全く違ったのです。

    完璧に「伝統」を守ろうとして何かを完璧に保存することは無理なのです。なぜなら人はみな違う人間なのですから。本当の「伝統」とは「伝える」ことです。フランス語で「伝統(Tradition)」の同義語は「伝達する(Transmettre)」です。「翻訳する(Traduire)」と同じ「Tra」がポイントです。「伝統」とはある意味「記憶」と同じで記憶とは面白いものです。今誰かがこの部屋に突然入ってきて何かを言って去ったとする。その後でここにいる全員に彼が何を言ったのか、どんな人間だったのかと質問すると、それぞれ違う答えが返ってくるでしょう。同じものを見聞きしたはずなのになぜ人によって印象が違うのか。それは記憶が個人個人で少しずつデフォルメされるからです。私はデファイエの生徒であり、ミュールのレッスンも受けた。私が彼らの「伝統」を伝えるとしたら私の記憶の中に残っているものしか伝えられない。そして私が覚えているものというのは私の興味や私の生活を背景としてその当時の状況に多分に依存しているはずです。演奏には常に新しく「創造」が伴います。伝統を演奏で伝えていくということは、すなわち創造していく行為です。

    マルセル・ミュールはパリ音楽院のサックス科を創設し彼の「伝統」を作りました。その伝統を次の世代に伝えるために私にとって創造することは避けることのできないものなのです。

    私はミュールやデファイエをはじめとするエコール・フランセーズの伝統を引き継いでいると自負しているけれど、新しいレパートリーを開拓・創造するときでも「これこそが伝統だ」と実感します。新しい「伝統」を作っているのではなく「伝統」に新しい1ページを加えているという意味です。「伝統」に対してしばしば起こる反発は概して自分自身や記憶に対する自信の欠如から来るものです。私にとって一番大切なのは自分の記憶にできる限り自信を持つということですね。(続く)

  •  (2010年11月パリ国立高等音楽院にて。)

 
ここではインタビューの一部を掲載しています。全文を読みたい方は「パイパーズ」2011年2月号をご購入の上お読み下さい。
インタビュー文は本人及びパイパーズ編集部の許可のもと掲載されています。無断転載は固く禁じます。
 
 

  

クロード・ドゥラングルClaude DELANGLE

パリ国立高等音楽院を1 等賞で卒業。

1988年に同院教授に就任。世界各地でマスタークラスを行っている。L.ベリオ、P.ブーレーズ、G.グリゼー、武満徹、A.ピアソラなどの作曲家たちと活動をともにする一方、多くの若手作曲家に新作を委嘱。86年からアンサンブル・アンテルコンタンポランと共演し、BBC響、フランス放送響、ケルン響、ベルリン・フィルなどの主要オーケストラにソリストとして出演。世界の主要音楽祭にも招かれており、2003年、IRCAM主催のフェスティバル・アゴラで行われたリサイタルは大好評を博した。アンリ・ルモワンヌ社の『ドゥラングル・コレクション』で、現代曲だけでなく、教育作品やクラシックのレパートリーの出版・監修を行っており、これまでにBISから10枚のソロ・アルバムをリリースしている。
http://www.sax-delangle.com/